【寄稿】オイルパームのCO₂収支(田中良平)

 このところ「脱炭素」が世界中でキーワードとなっています。その一つ「温室効果ガス削減」に向けて、植物の持つ二酸化炭素(CO2)吸収能力の寄与が大いに期待されるところですが、それぞれの植物が果たしてどれだけの吸収能、すなわち炭素を地上に固定する能力があるのか?樹木に関しては以前から幅広く研究されていますが、非木材についてはなかなか纏まったデータがありません。しかしながら、今後、植物資源の利用とCO2排出の抑制を並行して進めていく上では、炭素蓄積に関わるデータは欠かすことのできない情報になると考えられます。
 筆者(田中)は、以前オイルパームのCO2収支(=排出&吸収)について文献調査を元に、熱帯林との比較を行なったことがあります。2018年に機関誌「山林」(大日本山林会)に纏めた内容を簡単に紹介します。

 オイルパームは植栽後9~10年のプランテーション、熱帯林はマレーシアにある典型的なフタバガキ林で、単位面積当たりのバイオマスと炭素循環を右図のように纏めました。オイルパーム栽培の主目的はもちろんパーム油を生産することで、それに伴い大気中から地上に蓄積された炭素を系外、すなわち植栽のある場所から外に「持ち出す」ことになります。その一方で、熱帯林は「持ち出し」がなく、蓄積された炭素はその場に留まります。そのような状況ですが、ある程度成長した(=油生産可能な)パーム林では年間のCO₂蓄積の増加量が8t/haあり、熱帯林の6t/haを上回るほどです。すなわち、オイルパームプランテーションも熱帯林も炭素蓄積に関してはほとんど同じであることが分かりました。但し、オイルパームは25~30年経つと油収量が下がるために伐採・更新されます。一旦伐採されると、土地の整備や新たな植栽などで3~4年程度の「ブランク」が生じます。つまり、その間のプランテーションにおける炭素蓄積はゼロまたは非常に少ない状態にあり、そのような期間があることによって常時存在する熱帯林とは大きな差となってくると考えられます。

 ここに挙げたオイルパームは一つの例であり、土地条件や管理状況など、また対象とした熱帯林の状態によって違ってくると思われます。しかしながら、人工的に植物を栽培しそれを利用する場合、「収穫」というプロセスが存在する限り、自然な状態と比べて多かれ少なかれ炭素蓄積の撹乱が起きる、ということが言えると思います。

 なお、この記事(山林、1610: 40~48、2018年7月)の全文をご覧になりたい方は非木材グリーン協会・田中までご連絡ください。

(田中良平)