危機一‘発’(番外編):星に一番近いところ

 危機一発の「癖」のある話は、少しお休みです。今回は、「星に一番近いところ」を紹介します。毎度、危険と背中合わせのストーリーでは不味いと思い、変わった視点からトピックを探してみました。チリには二度駐在し、合計7年間を過ごしました。

 チリの人口は約1,900万人(2020年統計)、国土は約78万㎡(日本の約2倍)です。人口密度から言えばとても心地の良い密度です。皆さんご承知のように、南米の西側に南北約5,000kmも細長く張り付いている銅(Copper)生産と森林資源の国です。チリ人は、南極から熱帯近くにまで広がった資源国と自慢します。

 この国も手前味噌の自慢話がとても好きな国民性を持っていて、南米の他の国とは違うという気分を持った誇り高い人たちです。そのひとつが「空(Sky)」の美しさです。首都であるサンチャゴ市には約500万人が生活しており、アンデス山脈の東側と海岸山地の西側に挟まれた盆地状の土地で、その当時(1990年頃)猛烈な排気ガスに覆われた公害都市でした。駐在員は、毎月一度は家族を連れて太平洋岸の景勝地Vina del Mar(ビニャデルマール)に行って「新鮮な空気を吸える休暇」という特典があったほどです。

 そこで本題ですが、チリも他の国と同じく都市への人口集中が激しく、空気の悪いサンチャゴにチリ人口の25%が集中しています。これは別の言い方をすれば、サンチャゴ以外は人口密度が極端に小さいという意味です。私はビニャデルマールが大好きです。理由は、①南米のカンヌと言われる太平洋に面した景勝地であること、②バクチ場があること、③スキーリゾートに近いことです。そして、サンチャゴから車で2時間以内に行けることです。

 特に、6月~12月の冬場のビニャデルマールは最高。早朝サンチャゴを出てアンデスのスキー場に直行、15時頃まで高度3,000Mのパウダースノーで滑りまくり、遅い昼食後にスキー場からビニャデルマールに直行。夕食後、バクチ場にドレスコードを守って入場し、心行くまでとは言えないけれど、バクチ(なんでも)を楽しみ、午後11時頃にサンチャゴに向かうという日程が最も好きでした。勿論、家族連れの(新鮮な空気経験旅行とは別の)旅行です。

 バクチを終えて深夜に出てサンチャゴに向かう道路(高速道路ではなかった)の途中で停車して、夜空を眺めることは最高の楽しみでした。街路灯は勿論ありません。周囲10kmは勿論誰も住んでいないはずです。漆黒の闇というべき場所ですが、車のライトを消した途端に、暗くないのです。明るいのです。満点の星、大きな天の川が頭上の端から端まで流れ、星空を背景に周囲の丘陵地帯が黒く波打っている光景には感動を覚えるほどです。しばらく(バクチで荒れた)心の平安を経験できるひと時です。一冬の間に数回この星空を体験することで、駐在の苦労も報われるといっては間違いではありません。

 休暇を取ってチリ北部のアタカマ砂漠を家族とともに旅行しました。最初の訪問先は、世界最大の銅鉱石の露天掘り鉱山であるコデルコ(CODELCO/チリ銅公社)を見学。更に午前2時頃にホテルを出発し、アタカマ砂漠を横断してアンデス山脈の5,000mの峠を高山病のリスクを考えながら越えて、タティオ(Tatio)の世界3番目位の間欠泉を見物に行きました。この旅には流石にガイドが必要でした。富士山より高い場所の道路らしいところをノロノロと3時間程行くと間欠泉です。当然、街灯はなくそれこそ星明りです。豪快な天の川と満点の星です。星明りは確かに明るいことを知りました。宇宙に吸い込まれるようです。きっとここは星に近い場所でしょう。

 そしてアタカマ砂漠には空が澄み切っていること、湿度がとても低いことを主な理由として、50~70基の天体電波望遠鏡が集まっていて、24時間宇宙の奥底を観察しまくっています。砂漠の中にパラボラアンテナが無数に並んでいる光景は圧巻です。

 とにかく寒い。この夜間の寒さと昼間の暖かさの温度差により、間欠泉が吹き上がるそうです。湯が出るので風呂でもあるかと思ったら、とんでもない。流れている湯の表面には薄氷が張っていました。息子は、この薄氷を踏みぬいてしまいました。するとガイドが飛んできて、息子を車の中に抱え込んで靴を脱がし、温め始めました。とんでもない凍傷になるそうです。外気温は-15℃位という。

 午前6時頃ようやく外気温が温まり始めると、温度差で間欠泉が噴出しました。北米のイエローストーン程ではないが、豪快に温泉が吹き上がる光景はとても美しいものでした。是非お立ち寄りください。

(浜崎慶隆)