【今回、出会った本】
『イベルメクチン』大村智 編著(河出新書)2021年11月刊
「イベルメクチン」とは、寄生虫駆除薬として世界的に普及している薬剤です。すでに知っておられる方も相当数おいでだとは思います。
そんな薬が、いま新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬としても、注目されはじめているということがあります。
それまでまったく未知の感染症だったこの病気に特効薬はありませんでしたから、もしほんとうに「イベルメクチン」が効くのであれば、こんなありがたいお話はないはずですね。
ところが、話はそんなに簡単ではないようです。まったく逆のことが起きているらしいのです。どういうことかというと、「イベルメクチン」が新型コロナへの治療薬として期待されればされるほど、それに反対する動きがどんどん出てきて、大きな論争になっているというのです。この薬を使わせないようにする力が働いてしまうようなのです。
誤解を与えてはいけないので、まったくの素人である私がそうした世のなかの論争に、コメントめいたことを述べることは慎みたいと思います。その代わりとして、この本に書かれている「イベルメクチン」をめぐるさまざまな論点のなかから、特に新型コロナ薬の「緊急時使用許可(EUA)」に関わる部分にスポットを当てて、紹介していこうと思います。
(ここから引用)
新型コロナパンデミックにおいて、最も被害が大きかった米国では、有効な対応策を講じることができず、国民3億3000万人の13%以上に相当する4312万人以上が感染し、69万人を超える死亡者を記録(2021年9月20日現在)してしまいました。
米国では、HHS(アメリカ合衆国保健福祉省:引用者注)による緊急時対応体制に基づく医薬品・医療機器の緊急時使用許可(EUA)制度によりヒドロキシクロロキンやレムデシビルおよび各種ワクチン等の使用が許可されてきましたが、新型コロナが抑制されて緊急事態から平時に戻った時点でEUA指定品目は使用できなくなります。このため、平時にも臨床で使用されることを希望する場合にはEUA指定期間中に臨床データを蓄積し、通常の手続きにより医薬品として承認を得る必要があります。既にレムデシビルは、10か国が参加する国際治験の成績に基づいてFDA(アメリカ食品医薬品局:引用者注)から通常の承認が得られており、EUA指定は解除されています。
(第3章 緊急使用許可(EUA)と適応外使用)
(引用ここまで)
ふだん私たちがテレビや新聞やネット上などで当たり前のように接している「ファイザー」や「モデルナ」といったいわゆる新型コロナのワクチン類は、実はアメリカのこの「緊急時使用許可(EUA)制度」を使って承認されたものでした。そんなことも知らないままに過ごしてきて勉強不足もいいところなのですが、もうひとつ驚いたことは、これらのワクチン類はあくまでも「緊急時使用許可」のものなので、「新型コロナが抑制されて緊急事態から平時に戻った時点」で使用できなくなるという決まりになっている事実です。
つまり実体として、現在、日本国内で使用が認可されているワクチン類は、まだ正式には認可されていないものが、新型コロナのパンデミックという緊急事態をうけて特例承認したかたちで使われているというのが、現実の偽らざるすがたなのですね。
こうした事実を知ると、ビジネス的なソロバン勘定がすっかり根付いてしまった私などからすると、ひとつ心配の種がでてくるのです。例えば、もし仮にとつぜん明日パンデミックが終息してしまったら、一体どういうことになるでしょうか?
すでに製造してしまったワクチンや入荷してしまったワクチンなどが、ぜんぶ使用できなくなるわけですから、私たちの社会の経済的損失は、使われなくなったあの布マスクなどとは比較にならないほど、膨大なものになってしまわないのでしょうか?
その点がとても心配です。(了)
(添田馨)