【連載】「日々是発見!」(4)《帰化植物は悪者なのか》!?

【今回、出会った本】
『帰化植物の自然史――侵略と攪乱の生態学』森田竜義(北海道大学出版会)

 もう何年も前のことになりますが、熱帯原産のケナフが木材にかわる新たな製紙原料になるかもしれないと話題になり、日本国内でもあちこちで試験的な栽培がおこなわれたことがあります。その際、一部の方々から、外来種であるケナフを国内にもちこむことは、わが国固有の生態系を破壊することになるのではないか、との懸念の声があがりました。
 このような声は、いわゆる〝帰化植物〟をめぐってこれまでも出されてきたさまざまな問題点を浮かびあがらせたと言ってよいでしょう。そもそも、外来種の植物が国内に入ってくることじたいは、はるか昔からくりかえされてきたはず。にもかかわらず、それらが日本に定着して〝帰化植物〟になることに、いまも神経質になる向きがあるのはなぜなのか?
 今回、この問題を考えるのにうってつけの研究報告が、私の出会ったこの本のなかにありました。榎本敬先生の「セイタカアワダチソウは悪者か」には、いろいろな角度からこの問題について考えるヒントが隠されています。

 すでによく知られているように、セイタカアワダチソウは北アメリカ原産の多年草で、一般には、戦後になってアメリカ軍の物資について国内にもたらされとの見方がなされてきました。1969年11月9日の朝日新聞には「猛威 黄色い悪草 セイタカアワダチソウ終戦時に〝進駐〟し大繁殖 花粉で鼻炎の心配も」との記事も載っています。しかし、その後の調査で、この草は戦前の1920年代にはすでに国内に入ってきていたことが分かりました。また、セイタカアワダチソウは虫媒花なので、花粉症の直接の原因にはなりえないようです。なのに、どうしてこの草だけがそれほど〝悪者〟扱いされてきたのでしょう。
 ひとつには、その旺盛な競争力と繁殖力があげられます。戦後の減反政策によって、休耕田の増加と宅地造成や道路工事によって、セイタカアワダチソウは全国に急速に広まりました。北九州では閉山した炭鉱跡に大きな群落ができた〝閉山草〟と呼ばれたり、60年代以降は〝高度経済成長のアダ花〟などと呼ばれたこともあったようです。たしかに、そうした現実を目のあたりにすると、やがて日本中がこのセイタカアワダチソウに覆いつくされてしまうのでないか、と誰もが不安になるかもしれませんね。

 でも、専門的な見地からみると、セイタカアワダチソウにはこれまでのマイナスイメージとはまったく別の側面があることが分かります。
 たとえば、セイタカアワダチソウはほかの花が少ない11月ごろに咲くためミツバチの蜜源として養蜂業者に重宝がられていました。また、耕耘(こううん)にはきわめて弱く、冬に一度耕耘するだけで再生することは少ないので、休耕田管理だけを考えると、何回も草取りをする手間がはぶけ、一番楽だとの見方もできるようです。さらに、この草は他感作用(アレロパシー)といって、地下茎からじぶんも含めたほかの植物の成長を抑制する物質を分泌するため、皮肉なことに、じぶんたちの群落でじぶんたちの種子を発芽させることができない、という意外な事実なども分かっています。

 この本との出会いをとおして一番おどろいたことは、セイタカアワダチソウが人間によって自然が破壊された跡地のその場所に入ってくる植物だという事実を知ったことです。つまり、在来の植生が残っている森林などにセイタカアワダチソウは入り込めないのです。ということは、あちこちで見かけるようになって久しいセイタカアワダチソウの群落は、人間の手による自然破壊の爪痕を示してもいるということなのです。
 自然は偉大だなあと私などはつねづね思っていますが、決してよいイメージを抱いていたわけではないセイタカアワダチソウのこうした側面をしればしるほど、固定観念で自然に接してはいけないなと反省することしきりでした。やっぱり、セイタカアワダチソウを悪者にするのは、どうもこちらの都合のようで、かんぜんに筋違いのような気がします。じぶんの〝帰化植物〟を見る目が、なんだかすこし優しくなったように思えるのは気のせいでしょうか?(了)

(添田馨)