【連載】「日々是発見!」(1)ウイルスは病気の原因だけじゃない!?

【今回、出会った本】
『ネオウイルス学』河岡義裕編(集英社新書)

 新型コロナウイルスの猛威が止まりません。毎日のように新聞やテレビやネットのニュースで「新型コロナ」の情報に触れているうちに、おかしな話ですが、ウイルスというものがいやおうなく身近に感じられてきますね。
 新型コロナウイルスに限らず、インフルエンザウイルスやノロウイルスなど「ウイルス」といえば悪い病気の原因のように何の疑いもなく思ってきました。でもウイルスって、どうも全部がぜんぶ悪玉じゃないようなんです。
 どういうことかと言うと、ウイルス研究者のあいだでは、「ウイルスが寄生する『宿主』に必ずしも悪い影響だけを与える存在ではない」ことが以前から知られていたそうなんです。いや驚きですね。この『ネオウイルス学』を読むと、そんな驚きの話が満載されているのです。
 たとえば「ヘルペスウイルスが潜伏感染していると、細菌に感染しにくくなる」という研究結果があるそうです。また、「ウイルスが感染した植物にはミツバチが多く集まり、受粉率が高まる」という報告もあります。

 それだけではありません。私たち人間のゲノムのなかにもウイルスに由来したゲノムが組み込まれているというのです。どういうことでしょうか?
 生物のDNAに組み込まれているウイルスのゲノムを「内在性ウイルス」と言うそうですが、「ヒトの全ゲノムのうち、およそ八%がウイルス、特にレトロウイルスと呼ばれるウイルス由来のゲノムだとわかってきた」というのです。例えばこうした「内在性ウイルス」のひとつ「ボルナウイルス」の多くは、「約四五〇〇万年前、類人猿の共通祖先にボルナウイルスが感染した痕跡」だということが分かっています。すごい話だと思いませんか?

 こうなると、「ウイルスは生命の一部」であるという見解も、あながちそれほど突飛なものとは思えなくなりますね。なぜなら、私たちの遺伝情報の一部がこうして外部からもたらされたものだとすれば、親から子へと受け継がれていくルートとはまったく別のルートから私たちのゲノム情報を刷新してくれる役割を、ウイルスは立派に果たしくれているからです。
 本書の執筆者のひとりの先生は「生命がある限り、『ウイルスフリー』な生活は実現しないと思う」と述べておられます。コロナ禍のなかで、世界の誰もがこのパンデミックの終息を願っていることは間違いないでしょうが、完全な「ウイルスフリー」ということがあり得ないのだとすれば、私たちはこのウイルスとも何らかのかたちで共存する道を探っていくしかないのかもしれません。

(添田馨)